Martine Rémy-Jardin教授(医学博士、博士)*、Jacques Rémy教授(医学博士)**
* フランス、リール大学病院センター胸部画像診断科
** フランス、ヴァランシエンヌ病院センター放射線科
2023-06-07
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病歴
リンパ管症性癌播種、骨転移および脳転移を伴う肺腺癌を患う51歳の男性患者は、化学療法と免疫療法を受けていた。治療効果の経過観察のため、造影胸腹部CT検査が依頼された。
診断
60 keVで表示した仮想単色X線CT画像では、複数の結節および浸潤影、ならびにリンパ管症性癌播種の部分的な縮小が認められた。肺門部および縦隔リンパ節腫大は縮小していた。胸骨および左第7肋骨の骨転移の変化も確認できた。奇静脈および半奇静脈は拡張していた。右肋骨横隔膜角に軽度の鈍化が認められ、新たに生じた少量の胸水が示唆された。両側副腎の肥厚と、肝臓の小さな低吸収病変2つが描出され、転移が疑われた。肺動脈(PA)の評価のため、画像表示を60 keVから40 keVに変更した。これにより主肺動脈(MPA)のCT値が248 HUから481 HUに上昇し、血管内および血管周囲の異常を描出するのに十分な値となった。偶発的な肺塞栓症(PE)を示す所見は認められず、肺血液量(Lung PBV*)画像にも灌流欠損はなかった。CT所見に基づき、開始した治療に対する良好な反応が期待され、予定されていた免疫化学療法が継続された。
図1:70 keV(図1a)、60 keV(図1b)、40 keV(図1c)で表示した軸位画像では、MPAのCT値に差が認められる(193 HU、248 HU、481 HU)。上大静脈(SVC)内の造影剤は均一で、ストリークアーチファクトを生じていない。中心静脈カテーテル(矢印)も確認できる。
図2:70 keVで表示した冠状断画像(図2a)では、後基底区域肺動脈(矢印)のCT値が不十分で、わずかに不均一である。60 keV表示画像(図2b)ではCT値が上昇し、40 keV表示画像(図2c)では明瞭に回復しており、PEがないことが確認できる。Lung PBV画像(図2d)では、灌流欠損を伴わない均一な肺内ヨード分布が認められる。右肋骨横隔膜角に軽度の鈍化がみられ、少量の胸水が示唆される。奇静脈および半奇静脈は拡張している。
図3:軸位画像(図3a、3b)および冠状断MPR画像(図3c、3d)では、右上葉および右下葉に肺結節(矢印)が認められる。右下葉には小さな浸潤影(点線矢印)もみられる。中心性および末梢性のリンパ管症性癌播種が描出されている。
図4:冠状断像および軸位像で胸骨の骨転移を認める(図4a、4b、矢印)。肋骨展開画像(図4c)では、左第7肋骨に転移性病変(点線矢印)が認められる。
図5:軸位画像では、両側副腎の肥厚(図5a、矢印)と、肝臓の小さな低吸収病変2つ(図5b、5c、点線矢印)が認められ、転移が疑われる。
解説
非小細胞肺癌(NSCLC)は最も一般的な肺癌で、肺癌全体の84%を占める。さまざまな組織型のうち、腺癌が最も多く、約40%を占める。[1] 肺癌の病期診断や治療効果の経過観察には、造影CTが一般的に用いられる。最適な撮影プロトコルについては幅広く検討されており、最近の文献では、静脈相での撮影がリンパ節、胸膜および肺実質の評価に役立つ可能性が示されている。[1, 2] この相では、壊死領域などの腫瘍構造や、胸膜および心膜の病変がより強く造影され、明瞭に描出される。上大静脈(SVC)および腕頭静脈内の造影剤は再循環によって希釈され、ストリークアーチファクトを生じなくなる。これにより、リンパ節の描出と性状評価が向上する。ただし、静脈相CTでは偶発的なPEの検出率が低下する可能性がある。この患者集団ではPEは珍しい所見ではなく、血栓塞栓症のリスクが高いため、検出できれば適切な治療につなげられる。[2] デュアルエナジーCTの導入以降、低いkeVで表示する仮想単色画像によってヨードのCT値が上昇し、門脈静脈相CTで偶発的に認められるPEの検出において診断画像の画質が向上することが、複数の研究で検討・報告されている。[3]
本症例は、光子計数検出器(QuantaMax™)を搭載した新開発のデュアルソースCTスキャナー、NAEOTOM Alphaで撮影された。電子ノイズがなく、エネルギー分解CTデータにより本質的なスペクトル情報と優れた組織コントラストが得られる。[4] スペクトルデータはすべてのルーチン撮影で利用でき、画像表示をさまざまな単色X線エネルギー(keV)に簡単に切り替えられる。これは、造影効果が不十分な場合に特に有用である。造影効果を高めるため、仮想単色画像をより低いkeV(低エネルギー)で表示できる。従来は70 keV(標準的な120 kV撮影に相当)で表示していた画像を、現在では静脈相撮影時の標準エネルギーとして60 keVで表示するのが一般的であり、造影された軟部組織と血管構造の描出を両立できる。必要に応じて、さらに低い40 keVなどで画像を表示し、肺動脈内のヨード造影効果を高めることで、より確信度の高いPE評価が可能となる。また、スペクトルデータからヨードマップ(Lung PBV)を作成でき、肺血管の評価と肺実質内のヨード分布解析を同時に行える。電子ノイズがなく、低エネルギーX線光子の重み付けが低下しないことにより、ヨードのコントラスト対雑音比(CNR)が最適なレベルまで高まり、ルーチン診断における低エネルギー表示画像の画質が向上する。また、放射線量や必要な造影剤量を低減できる可能性もある。
本症例が示すように、光子計数CTで得られるスペクトルCTデータは、日常診療において重要な役割を果たす。画像表示のエネルギーを簡単に切り替えられるため、静脈相での単回撮影のみで、医師は治療効果を包括的に評価し、偶発的なPEを除外できる。
検査プロトコル
スキャナー | NAEOTOM Alpha |
|---|
撮影範囲 | 胸部/腹部 |
撮影モード | QuantumPlus |
撮影長 | 487 mm |
撮影方向 | 頭尾方向 |
撮影時間 | 1.4秒 |
管電圧 | 120 kV |
実効mAs | 68 mAs |
線量変調 | CARE Dose4D |
CTDIvol | 5.3 mGy |
DLP | 282 mGy*cm |
回転時間 | 0.25秒 |
ピッチ | 1.5 |
スライスコリメーション | 144 x 0.4 mm |
スライス幅 | 1.0 mm |
再構成間隔 | 1.0 mm |
再構成カーネル | Br36/BI60 |
スペクトル再構成 | Monoenergetic Plus;
Lung PBV |
造影剤 | 400 mg/mL |
容量 | 60 mL + 生理食塩水40 mL |
注入速度 | 3 mL/s |
開始遅延時間 | 70秒 |
画像提供:フランス、リール大学病院センター胸部画像診断科