マルティーヌ・レミ=ジャルダン教授(MD*, Ph.D.);ジャック・レミ教授(MD**)
* フランス、リール大学医療センター 胸部画像診断科
** フランス、ヴァランシエンヌ病院センター 放射線科
2023年5月5日
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病歴
38歳の肥満女性患者(身長165 cm、体重109 kg、BMI 40)は、18か月前に急性肺塞栓症(PE)を発症した。既往歴には、下肢の広範な静脈炎、静脈血栓症、および潜因性脳卒中を複数回発症した重度の血栓形成素因が含まれていた。急性PEに対して適切な抗凝固療法を行ったにもかかわらず、呼吸困難は持続した。慢性肺塞栓症への移行の可能性を明らかにするため、患者はCT肺動脈造影(CTPA)を受けることになった。
診断
70 keV(標準的な120 kV撮影に相当)で表示したCTPA画像では、肺動脈の造影が不良(肺動脈幹内158 HU)である一方、大動脈は良好に造影されており、卵円孔開存(PFO)による右左シャントの存在が示唆された。このシャントにもかかわらず、撮影範囲の上部および下部3分の1は影響を受けていなかった。以前に閉塞し、急性血栓によって拡張していた右上葉区域動脈(RA1)には高度狭窄が認められ、限局性慢性PEが確認された。右下葉外側区域動脈(RA9)の血栓も持続して認められた。しかし、撮影範囲の中央3分の1では肺動脈(PA)の造影が不十分で、わずかに不均一であったため、左肺葉間PAおよび両側下葉近位PAに血栓が残存している懸念が生じた。画像表示を70 keVから40 keVに切り替えると、肺動脈幹内(457 HU)および区域PAの造影が診断可能なレベルに回復し、残存血栓がないことを確認できた。CT所見を踏まえ、担当医は、患者が以前の血栓性イベント以降に投与されていた抗凝固薬に抵抗性を示していると判断し、その後、別の抗凝固薬に治療を変更した。
図1:急性PE発症時に閉塞し拡張していた右上葉区域動脈(RA1)(図1a、矢印)は、70 keV表示画像では灌流が乏しく、著明な狭窄を示しており(図1b、1c、矢印)、限局性慢性PEが確認される。
図2:以前に右下葉外側区域動脈(RA9)に認められた血栓(図2a、矢印)は、70 keV表示画像でも持続して認められる(図2b、矢印)。
図3:70 keV表示画像では肺動脈幹の造影が不良で158 HUだったが(図3a)、40 keV表示画像では診断可能なレベルの457 HUに回復している(図3b)。
図4:両側肺葉間PA(矢印)および両側下葉肺動脈幹(点線矢印)に、以前の急性PEが認められる(図4a、4d)。70 keV表示画像(図4b、4e)では造影がわずかに不均一で、血栓残存が懸念されるが、40 keV表示画像では血栓残存は否定される(図4c、4f)。
解説
PFOは、出生後に閉鎖しなかった右心房と左心房の間の交通である。一般人口における有病率は高く、成人の約3分の1に認められる。[1] PFOのある人の多くは無症状で、治療を必要としない。[2] しかし、PFOがあると奇異性血栓塞栓子が静脈系から体循環へ移行し、体循環塞栓症を引き起こすことがある。患者が発症した潜因性脳卒中もその一例である。胸部CT検査では、バルサルバ法を行いながら深く息を吸って息を止めた際にも、血流の逆転(右左シャント)が起こることがある。その結果、「ジェットサイン」が認められない場合でも、造影剤が右心房から左心房へ流れ、今回の症例のように肺動脈の造影が不良で大動脈の造影が良好となることがある。このためPEの診断が制限され、造影剤を再投与して撮影を繰り返す必要が生じる可能性がある。
本症例の撮影には、フォトンカウンティング検出器(QuantaMax™)を搭載し、電子ノイズのないエネルギー分解CTデータを提供する、新開発のDual Source CTスキャナー、NAEOTOM Alphaを使用した。[3] フォトンカウンティングCT(PCCT)の主な利点の一つは、あらゆる撮影でスペクトラルCTデータを利用でき、画像表示を異なる単色エネルギー(keV)設定に簡単に切り替えられることである。低いkeV設定で画像を表示することで、PFOの開口により造影剤ボーラスを捉え損なった撮影でも、診断に活用できる。患者の体型にもかかわらず、本検査では全体として最適な画質が得られた点も注目に値する。肥満では通常、ノイズによる画像のざらつきが生じ、肺動脈、特に末梢分枝の正確な評価が困難になる。検出器に入射するX線量が少ない場合、特に肥満患者のCT撮影時のように電子ノイズが支配的となる状況では、電子ノイズがないことで画像ノイズが大幅に低減される。さらに、画像再構成ではモデルベースの逐次近似再構成法であるQuantum Iterative Reconstruction(QIR)も適用され、画像ノイズのさらなる低減に寄与する。
本症例が示すように、Quantum Technologyが提供するスペクトラルCTデータは、日常診療において重要な役割を果たす。PFOが未診断だった肥満患者では、低エネルギー画像を用いることで、撮影を繰り返したり造影剤を再投与したりすることなく、診断に適した画質を回復し、肺動脈を詳しく評価できる。CT所見により、患者の状態が悪化した理由を説明し、治療方針の変更を検討することが可能となる。
検査プロトコル
スキャナー | NAEOTOM Alpha |
|---|
撮影範囲 | 胸部 |
撮影モード | QuantumPlus |
撮影長 | 280 mm |
撮影方向 | 尾側から頭側 |
撮影時間 | 0.8 s |
管電圧 | 120 kV |
実効mAs | 134 mAs |
線量変調 | CARE Dose4D |
CTDIvol | 10.4 mGy |
DLP | 356 mGy*cm |
回転時間 | 0.25 s |
ピッチ | 1.5 |
スライスコリメーション | 144 x 0.4 mm |
スライス厚 | 1.0 mm |
再構成間隔 | 1.0 mm |
再構成カーネル | Br36 / BI60 |
スペクトラル再構成 | Mono+ |
造影剤 | 400 mg/mL |
容量 | 60 mL + 生理食塩水40 mL |
注入速度 | 3 mL/s |
開始遅延時間 | 上行大動脈で150 HUに達した時点から3秒後にボーラストラッキングで撮影開始 |
画像提供:フランス、リール大学医療センター 胸部画像診断科