Martine Rémy-Jardin教授(MD*, Ph.D.);Jacques Rémy教授(MD**)
* フランス、リール大学医療センター胸部画像診断部門
** フランス、ヴァランシエンヌ病院センター放射線科
2023年4月5日
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病歴
COVID-19の経過中に大規模な急性血栓塞栓症を発症した既往のある83歳男性患者が、前毛細血管性肺高血圧症(PH)と診断された。PHの原因を評価するため、造影胸部CT検査が依頼された。担当の循環器科医は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)はCOVID-19による入院以前から存在していたと考え、肺にCOVID-19の線維化後遺症がないか調べていた。
診断
CT血管造影(CTA)画像では、中枢肺動脈(PA)の拡張、末梢PAの先細りと枝の減少、右心房の著明な拡大および右心室の中等度拡大、血管内の網状構造と造影欠損、気管支動脈の拡張、両肺のモザイク状灌流パターンが認められた。肺血液量(LungPBV*)のスペクトラル画像データ評価では、両側に末梢の楔状灌流欠損が複数認められた。これらの所見はCTEPHと一致していた。COVID-19後遺症を示す所見は認められなかった。患者は治療方針の決定のため、国立基準センターに転院した。胸部CTAで肺動脈循環の近位部閉塞が認められたため、手術前に肺血管抵抗を低下させる薬物治療を行った後、肺動脈血栓内膜摘除術(PTE)の適応があると判断された。
図1:軸位画像では、右中葉PAおよび左下葉前区域PAに近位部の造影欠損が認められる(図1a、矢印)。冠状断MPR画像では、右上葉区域PAに「ウェブ」サインが認められる(図1b、矢印)。右心房の著明な拡大と右心室の中等度拡大も認められる(図1c)。
図2:軸位(図2a)、冠状断(図2b)、矢状断(図2c)のMPR画像では、両肺にモザイク状灌流パターンが認められる。
図3:シネマティックVRT画像では、中枢PAの拡張、末梢PAの先細りと枝の減少、および気管支動脈の拡張(矢印、図3b)が認められる。
図4:LungPBV画像の矢状断(図4a、4c)および冠状断像(図4b)では、両側に末梢の楔状灌流欠損が複数認められる。
解説
PHは、平均肺動脈圧(PAP)が20 mm Hgを超える血行動態上の病態であり、病態生理学的機序、血行動態上の特徴、治療方針が類似する5つの異なる群に臨床分類される。[1] CTEPHは第4群に分類され、肺動脈閉塞がPHの原因となる。COVID-19に伴う肺塞栓症(PE)の発生率は報告されているが、COVID-19後のCTEPHに関するデータはない。[2] 急性PEは、残存した器質化血栓によるPAの異常な持続性閉塞と、程度に差のある微小血管症が組み合わさることで、CTEPHを引き起こす可能性がある。CTEPHは未治療の場合、予後不良であり、右室機能障害の進行により右心不全に至る。慢性血栓塞栓症はPTEによって治癒する可能性があるため、CTEPHの早期認識が不可欠である。近年、PHの原因診断におけるCTの役割が変化しており、CTEPH診断における最新CT技術の重要性が高まっている。
この症例の検査には、光子計数検出器を搭載した新開発のCT装置、NAEOTOM Alphaを使用した。この装置は、電子ノイズがなく、空間分解能が向上したエネルギー分解CTデータを取得でき、固有のスペクトラル情報と優れた組織コントラストを提供する。[3] これらの特長はいずれも胸部CT画像の利点と向上につながる。例えば、低エネルギーX線光子の重み付け低下がなく、電子ノイズも存在しないため、ヨードのコントラスト対ノイズ比(CNR)が向上し、放射線量や必要な造影剤量を低減できる可能性がある。もう一つの利点は、造影スキャンごとにスペクトラルCTデータを利用できることである。つまり、ヨードマップ(LungPBVとも呼ばれる)を各CTAデータセットから作成でき、肺血管系の評価と肺実質のヨード分布の解析を同時に行える。スキャン速度が速いため、胸部全体のスペクトラルデータを2秒未満で取得できる。これは日常診療のワークフロー改善に大きく寄与する。PHの臨床的状況において、先行研究では灌流欠損の検出に関し、LungPBVとシンチグラフィの一致が示されている。[4] 本症例で示されているように、胸部CTAは、慢性PEを示すCT所見の有無を評価し、PHに続発する肺動脈拡張と右室機能障害を確認するうえで、放射線科医の助けとなった。PHの原因がCTEPHであることが明確になり、適切な治療計画の立案に役立った。
検査プロトコル
スキャナー | NAEOTOM Alpha |
|---|
撮影範囲 | 胸部 |
撮影モード | QuantumPlus |
撮影長 | 350 mm |
撮影方向 | 頭尾方向 |
撮影時間 | 1秒 |
管電圧 | 120 kV |
実効mAs | 56 mAs |
線量変調 | CARE Dose4D |
CTDIvol | 4.3 mGy |
DLP | 168 mGy*cm |
回転時間 | 0.25秒 |
ピッチ | 1.5 |
スライスコリメーション | 144 x 0.4 mm |
スライス厚 | 1.0 mm |
再構成間隔 | 1.0 mm |
再構成カーネル | Qr40, QIR3 |
スペクトラル再構成 | LungPBV |
造影剤 | 400 mg/mL |
容量 | 60 mL + 生理食塩水40 mL |
注入速度 | 4 mL/s |
開始遅延時間 | 上行大動脈で100 HUに達した時点でボーラストラッキングを開始
+ 5秒 |
画像提供:フランス、リール大学医療センター胸部画像診断部門